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東京家庭裁判所 昭和43年(家)7092号 審判 1968年11月11日

本籍 住所 東京都新宿区

申立人 小野文子(仮名)

国籍 中華民国 住所 東京都新宿区

事件本人 林万延(仮名) 外一名

主文

本件各申立を却下する。

理由

一、本件申立の要旨は、申立人は昭和三一年離婚したものであるが、申立人が不妊のため離婚になつたもので、申立人は将来とも子供を持つことは期待できない、そこで、申立人の知人張栄華の子二人を養子として貰う約束をしていたが、この度その約束に基づき事件本人らとの間に養子縁組をすることになつたので、事件本人らを申立人の養子とすることについて許可を求めるため本件申立に及ぶ、というにある。

二、よつて審按するに、本件記録中の資料によると、申立人は日本人であるが事件本人未成年者らは中華民国国籍を有すること、申立人は肩書住所に居住し、事件本人らは肩書地に居所を有することが認められる。

まず、本件はいわゆる渉外養子縁組に該当し、事件本人たる未成年者らは外国人であるが養親たる申立人が、日本に居住する日本人であり、未成年者らは日本に居所を有するから、本件養子縁組については日本の裁判所が裁判権を有し、かつ当裁判所が管轄権を有するものと解せられる。

つぎに本件養子縁組の準拠法について考えてみると、法例一九条一項により養子縁組の要件は各当事者間につき、その本国法によつて定むべきことが規定されているので、それぞれ、養親たる申立人については本国法として日本民法が、未成年者については本国法として中華民国民法を適用すべきこととなる。未成年者の本国法たる中華民法には収養(養子縁組)の制度があり、同法一〇七九条によると、収養は書面を以つてこれを行なわなければならないとされるほか、実質的要件として同法一〇七三条によると、収養者の年齢は被収養者より二〇歳以上長じていなければならないとされているのであるが記録中の戸籍謄本によると、申立人は四一歳、事件本人林万延は一七歳事件本人林恭順は一五歳であるから各当事者につき右要件を具備しており、本件記録中の資料によると事件本人の父林雲恵、母張栄華もこの養子縁組に同意し収養証書を作成していることが認められるので、未成年者の本国法の要件を具備するものと解される。

ところで、申立人の本国法たる日本民法七九八条本文は未成年者の養子縁組について、家庭裁判所の許可を受くべき旨規定するが、この家庭裁判所の許可は養親、養子双方について養子縁組の成立要件と解されるので、本件養子縁組にも民法七九八条本文により、家庭裁判所が、未成年者の福祉の観点より養子縁組の許否を決すべきものと解せられる。

然るときは当庁家庭裁判所調査官望月嵩の昭和四三年七月一五日付、同年九月二一日付、同年一一月二日付各調査報告書、申立人本人、事件本人、ならびに参考人審問の結果によると次のとおりの事実が認められる。

申立人は独身の女性で、昭和三〇年結婚したが昭和三二年協議離婚し、現在は医院に看護婦として働くかたわら指圧、菜食指導、漢方による治療などにより月収六万を得、四畳半一室のアパートに暮しており、事件本人らの母の父と申立人の父がかつて知り合いであつたところから、事件本人らを貰う話になつているが、事件本人らはまだ申立人と暮していない。

事件本人らは台湾に生れ育ち、昭和四一年頃から父とともにベトナムで暮していたが、昭和四三年三月、観光査証で来日しそのまま滞日しているもので、現在母の姉が経営する食堂の使用人の寮に母や他の兄弟と生活しており、中華学校に通い日本語の勉強を始めたがまだ充分ではない。しかし将来とも日本において勉強したいと考えている。また事件本人らには三人の弟妹があり父親はベトナムで働き、母親が五人を抱えて暮す生活は楽でないので、事件本人らが申立人の養子となることを望んでいる。

以上の事実が認められる。

以上の事実と、申立人が当庁調査官の呼出にも応ぜず、本件養子縁組にさして熱意を示さないこと、各当事者の出頭した審問期日においても、未成年者らは日本語を充分理解せず、申立人はまた中国語の理解が充分でなく、もつぱら事件本人らの実母が通訳するという様子がみられ、申立人と未成年者らとの間にさして深い情緒的結びつきがあるとも認められないことを照し合わせると、本件養子縁組が申立人の真意に出るものかどうかにつき疑問の存するばかりでなく、未成年者の福祉にそうものかどうかについても、疑問なしとしない。もつとも事件本人らとその実父母は事件本人らが滞日し日本における勉学の継続を熱望しているけれども、養親子の実質関係がない以上、右の理由だけで本件養子縁組が事件本人らの福祉にそうものとも認められない。

よつて、本件申立は結局理由がないから失当としてこれを却下すべきものと判断し、主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 野田愛子)

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